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カーボンフレーム考 -Bianchi Oltreシリーズに見るカーボンフレームの変遷-

おはようございます。EMUの機材屋春宵です。

ミートアップに関係無い記事垂れ流す人が一人くらい居ても良いよね?と言うことで今回もミートアップ無関係な内容です。

 

 

 

「ええ年のワインばかり選んで飲めばいくらでも満足は得られるやろうけど 脈々と続く伝統を感じる事はでけへん」

「伝統を味わう―― この上ないぜいたくやと思わへんか?」

城アラキ/甲斐谷忍 ソムリエ 8巻 集英社より

 

 

 

今回は歴史のお話をしようと思います。とはいえここ10年以内の歴史です。僕の好きなブランド、ビアンキのとあるフレームの歴史です。

 

Bianchi最後のマイヨジョーヌは1998年マルコ・パンターニの駆るMega Pro XLまで遡ります。素材はスカンジウム配合アルミフレームです。

その後マイヨジョーヌマグネシウムという特異点を挟みますがカーボンフレームバイクのものとなり、Mega Proはマイヨジョーヌをとった最後のアルミフレームとなりました。

 

そして旧来のトップランナーであればあるほど、パラダイムシフトには乗り遅れるもの。

Bianchiのレーシングラインとしてのカーボンフレームの登場は2007年の928 SLまで待たなくてはいけません。そして2010年にはISP化した928SL IASPが登場、そしてついに2011年に現在まで続くOltreシリーズが産声を上げます。

 

2011年よりAndroni Giocattoliに、2012年よりVacansoleil DCMにバイクを供給し、2014年に当時のBelkin Pro Cycling team, 現在のJumbo-Vismaにバイクを供給し始めました。使用されるバイクは専らOltreシリーズでしたが代々進化を重ねます。

2017年モデルとして現在も販売が継続されるOltre XR4が発売され勝利を量産、チーム力の強化も相まって2019年シリーズはシーズン51勝(内11勝はAquila CV, 8勝は総合優勝)とUCIレースでSpecializedに次ぐ勝利数を挙げたブランドとなりました。

 

これまでのカーボンフレームの進化をそんなBianchiのハイエンドカーボンフレームのレビューという形で振り返り、伝統をなぞってみたいと思います。

 

 

まずは数多く存在するOltreシリーズを3つに分類しましょう。括弧内は公称フレーム重量です。

1) 初代Oltre系 : Oltre(930g), Oltre XR(895g), Oltre XR2(895g)

2) 2nd grade : Oltre XR1(1000g), OltreXR3(1100g)

3) 次世代Oltre系 : Oltre XR4(980g)

 

1)は突然変異の様に産まれた艶めかしいフレーム、初代Oltreとそのマイナーチェンジ版です。

 

2)はXR2の廉価版として産まれたXR1及びXR1にCVを搭載したXR3が含まれます。

XR3はXR4の弟分として語られる事が多いですが、フレームデザインは完全に初代Oltre系であり、XR1にリブを加えシートクランプを内装化したものとなっています。

恐らくCVを搭載したことにより快適性を犠牲にせずにフレーム剛性を向上させられるとの判断でリブの追加がなされたものと思われます。

 

3)はエアロバイクとしての性格を強め、時代に即した規格で作られた全く新しいフレームです。

 

2) 2nd grade系は1台も持っておりませんのでレビューもありません。あしからず。

 

それではまず、Oltreの前身、928SLから見ていきましょう。

 

0. Bianchi 928SL IASP 2012 (シートポスト改造品, Shimano R8000)

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Bianchi 928 SL IASP 2012

ebayでイタリア人から買いました。ISPのシートが短く切られすぎていた様子で、購入時より加工してDe Rosa Merakと同じ短いシートポストが挿入されています。

フレームワークは直線的で、ワイヤーはフル外装です。

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head tube

ヘッドチューブは単純な円形ではなくリブが入り、一部がそのままトップチューブへと連なります。

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front fork

フォークはこのころまでのビアンキの泣き所です。フレームの複雑な造形と打って変わってシンプルなストレートフォーク、コラム径は1-1/8となります。恐らくフォークの製作・塗装は外注だったのでしょう、塗装の黄ばみがフォークにのみ出てしまいます。
 

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seat tube集合部

トップチューブからシートステーへと連続的に移行し、リアブレーキ取り付け部はシートステーが梁の様に補強しています。

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chain stay

チェーンステーは横に広い断面を持ち更に湾曲させることによりリアの振動吸収を図っています。

 

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seat tube

シートチューブはIASPの断面からタイヤの湾曲に沿って細く円形となり、FDはバンド式を採用します。

 

乗り味は硬く、縦板のような剛性を持ちます。ヘッド周辺の硬さが特に目立ち(ハンドルがShimano Pro Stelth Evoであることも影響しているでしょう)、ダンシングでは上体と下半身のリズム感にずれが生じます。

BB周囲も柔軟性がないためダンシングで踏み込むと下死点で減速している様な感覚を覚えます。

ただ、その硬さを活かして踏み込んだ時には機敏な反動を見せ、へにょへにょフォークの割にコーナリングも安定します。当時Bianchiがまともなフォークを使うことができ、全体の剛性バランスを整えて設計することができたのならば、と思ってしまう出来です。

振動は良く拾い、現代的なフレームに乗り慣れていると直ぐに手に疲労感を覚えるでしょう。

 

フレーム自体は軽量ですので、パーツを選べば6.8kgを下回ることは難しくないです。

 

 

1. Bianchi Oltre Nero 2012 (Campagnolo Super Record + Record)

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Bianchi Oltre Nero 2012

2011年に産まれたOltreはそれまでのBianchiのカーボンバイクとは一線を画す曲線美を持ったフレームです。

恐らくはフォークの専用品開発やエアロに対する意識の向上で生まれたフレームでしょう。

 

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head tube - top tube

ヘッドチューブは下半分で抉られ前方投影面積を削るために絞り込まれます。そのラインはそのままトップチューブへ連なり、トップチューブはやや弓なりでシートチューブとの接合部では非常に華奢になります。

 

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seat stay

そこから連なるシートステーは異様に細く、ブレーキ取り付け部には丁字の補強が入ります(XR3ではシートステーはやや太くなり、補強も横一文字へ簡略化されます)。

 

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リアブレーキ取り付け部

ダウンチューブ断面は菱形で、現代の感覚では空力的には中途半端ですが円形を少し潰したダウンチューブを持つ928SLからの進化を認めます。ダウンチューブにはイーグルが居座り、このフレームに掛けるビアンキの誇りが感じられます(イーグルでっかいAquilaほしい…)。

 

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seat tube

シートチューブは翼型から正円と変化し、後端はやや控え目にリアタイヤに寄り添います。そしてFDはバンド式です。この辺りは928SLの面影が強く残っています。

 

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BB周囲、chain stay

チェーンステーは928SLと異なり縦長の角形であり、そこから外に振ってリアを支えます。チェーンステー部はワイヤー外装です。

 

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front fork

フロントフォークは空力を意識した翼断面となり、ヘッドチューブ直下ではフィンが後方へ伸び、ヘッドチューブに寄り添います。コラムは1.5-1-1/8テーパードとなり理論的にはヘッド剛性は増しているはずです。

 

 

カラーデザインは928SLと通じる横複数色ストライプ系を基本としていましたが、ブラックマットのフレームも存在し、Neroという限定車も作られました。

マットブラックにグラファイトのロゴでBianchiにしては控えめなチェレステのラインが映えます。マット塗装の質は経年劣化もあるでしょうが粒が荒く、現代の目線で見るとチープです。

サドルクランプ、リアエンド金具(オリジナルはクイックリリースも?)がブルーアルマイト加工されており良くも悪くも色を足します。リアエンド金具なんて半分消耗品なので限定品は勘弁してもらいたいです。おかげで乗るのが怖くて専ら壁飾りとなっています。

 

意欲的で美しいデザインのモデルですが、乗り味に関しては手放しに褒めることはできません。感覚的に言うとBB周りの剛性が相対的に高すぎてリアとの剛性のバランスがとれておらず、踏むと硬いが力が逃げてしまうような感覚があります。ただしケイデンス重視で回していくと素直に走ります。Oltre neroで山に登ったことはないですしコーナー攻めたこともないのでフォークやヘッド剛性などの評価は保留します。

 

 

2. Bianchi Oltre XR2 2015 (Shimano R9100)

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Bianchi Oltre XR2 2015

OltreからOltre XRのマイナーチェンジはどこが変わったか外観ではわからないレベルでしたが(軽量化と剛性アップしたとのこと)、XRからXR2へのマイナーチェンジはわかりやすい変化をしました。具体的には フロントフォーク上端のフィンが大きくなり、ダウンチューブが張り出すことでフロントとフォークの一体感を強めています。この造形は現在ではBianchi Sprintなどでも見ることができます。

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front fork

 

また、BBがBB30からBB386EVOへよりワイドになりました。

 

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head tube

ヘッドチューブからトップチューブ、シートステーまでの曲線的な美しいつながりは維持されています。シートステーの儚さすら感じる細さも維持されています。

ヘッド周りのワイヤールーティングが変更されており、リアブレーキワイヤーが右入りに(これマジやめてほしい)、前後ディレイラーワイヤーがダウンチューブ上方より入る形となりました。

 

形状としてはヘッド周辺の変更だけに感じられますが、乗り味は大きく改善しています。フレーム全体の一体感としなやかさを感じる事ができるフレームで、剛性の適材適所がわかってきた印象です。振っても軽く、踏み込めばほぼラグなく推進力に変えてくれるフレームです。ただ、思い切り踏み込んだ瞬間ガツンと加速する感覚は928SLに劣ります。

乗り心地は非常に良く、よっぽど荒れた路面でなければInfinito CVはいらないのではないかと思ってしまう程です。

 

 

3. Bianchi Oltre XR4 Flying Eagle 2019 (Shimano R9150)

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Bianchi Oltre XR4 flying eagle

ダウンチューブに誇らしげに居座っていたイーグルがいなくなり、僕の購買意欲もいなくなっていたのですが、ついにイーグルが居場所を変えてヘッドチューブに復活したので買いました。

風洞実験をしっかりと行い、空力面を強化、更にエンデュランスロード、Infinito CVで好評を博したcounterveilを搭載しています。

 

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head tube

外観はこれまでのOltreシリーズと大きく異なりますが、ヘッドの絞り込みを見るとこのフレームもまたOltreシリーズなのだと感じさせられます。絞り込みのラインはこのフレームでもそのままトップチューブへ伸びていきます。

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front fork

空力を意識してフロントフォークをストレートからやや両外側へ膨らむような形としています。

ブレーキはダイレクトマウント、XR2に見られたフォークとヘッドチューブの咬合はやや控えめとなりましたがXR4にも受け継がれました。

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head tube - Metron 5D

ヘッドは空力を意識してかテーパー径を細くしていますが、Metron 5Dを使う限り剛性は寧ろ向上している様に感じられます。

このフレームはFSA/Visionの一体型ハンドル、Metron5Dを前提として作られた初めてのフレームであり、専用パーツで滑らかに繋がります。

 

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seat stay

シートステーも空力を意識して起始部は細くなり、そこから平らになり左右に分岐します。旧来の窓と窓枠はなくなり、こちらもダイレクトマウントブレーキとなりました。

 

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seat stay

シートステーは安心感のある太さとなり、空力を意識してかやや縦長となりました。

 

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seat tube

シートチューブはシートポストの断面を維持してタイヤに合わせて細くなる形状には変わり有りませんが、タイヤとの間隔はずっと狭く、FDもダイレクトマウントへ変更されました。

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BB周辺

ダウンチューブはXR2より前後に長い翼断面であり、BB周辺は形状こそXR2までと似ていますがエッジがやや丸くなった印象です。チェーンステーはストレート、これまでの形状に頼った振動吸収を捨て去ります。これにより紐式で組んだ際、チェーンステーも内装できる様になりました。

 

XR4は端的に言うとCounterveilを搭載することで形状による振動吸収を捨て、より直線的に、エアロバイク然と作り直したOltreです。

とは言え硬いフレームですので、Counterveilのメリットは乗り心地の良さと言うよりトラクションのかかりやすさに感じる事が多いです。やや無茶な条件で踏み込んでいってもスピードへそのまま変換してくれるような感覚があります。

剛性バランスでの破綻は感じません。振りの軽さはXR2に劣り、よりがっちりとした乗り味になっています。

エアロバイクとしての速さはサーキットエンデューロでひしひしと感じます。ずるいと感じてしまうほどに。多少の向かい風でも風の間を縫って進んでいくような感覚があります。

マチュアサイクリストが跨がっても十分に速さを体感できる良いフレームです。

 

 

-終わりに

いかがでしたでしょうか。

カーボン成形技術の進化や剛性ノウハウの深化、空力解析の進歩によりフレームが時代を経るにつれ変化していく様子が少しでも伝わったのであれば幸いです。

 

あなたの愛車はどの様な歴史を経て今の形となり、そして今後どの様な進化を遂げていくのでしょう。そんな事に思いを馳せて自転車を眺める夜があっても良いのではないでしょうか。

そのフレームの美しいチューブからチューブ・ステーにかけてのつながり、チューブの潰し加工、チューブ同士を支えるリブ、そこに込められたブランドの思いを是非想像してみてください。

 

 

最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

 

春宵

 

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